こんにちは!エクシールの清水です。
今回のテーマは【製造業が直面する環境規制への対応】についてです。製造業において環境規制への対応は避けて通れない課題です。
対応策の具体例や成功事例を見ながら、それぞれどんなことができるのかを考えていきましょう。
環境規制とは?
環境規制は、企業活動が環境に与える負荷を最小限に抑えることを目的とした法律や基準です。環境汚染に関する規制の総称で、燃費規制やCO規制、大気汚染物質に対する規制などが含まれます。
製造業は、製品の製造や管理の過程で、多くのエネルギーを消費し、二酸化炭素や化学物質を排出するなど、環境に悪影響を与える可能性があります。また、工場排水や廃棄物なども発生するため、大気汚染や水質汚染、天然資源の枯渇といった環境問題に配慮する必要があります。
環境規制の具体例
では、実際にどんな規制があるのかを見ていきます。
■ カーボンニュートラル政策
2020年10月に宣言された、温室効果ガスの排出量を2050年までにゼロにする取り組み。
排出せざるをえなかった分については同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロを目指します。制限が厳しくなる中、製造業は省エネ技術や再生可能エネルギーの導入が求められています。
(参照:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 (METI/経済産業省))
■ プラスチックごみの削減
プラスチック製品の使用制限や、リサイクル素材の利用義務化。
レジ袋やプラスチックのスプーン、フォークなどの使用を減らし、マイバッグやマイボトルを持つようにします。2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行され、私たちの身の回りでも当たり前になってきました。
■ 有害物質規制
特定化学物質(PCB、RoHS規制)の使用制限。
人や環境に有害な化学物質が製品中に含有されないようにするための法規制で、近年、多くの国家で制定および施行されています。例えば、電気電子機器中の有害化学物質を規制するEUのRoHS指令があります。
環境規制への製造業の対応策は?
製造業は多くのエネルギーを消費したり、廃棄物排出量が多い業界です。また、設備更新や技術転換には高額な初期投資が必要となることも大きな課題です。
そんな課題を抱えながら、製造業はどのように環境規制へ対応することができるのでしょうか。
① エネルギー効率の改善
エネルギー効率の改善は、エネルギー消費を抑えるだけでなく生産性を向上させるために重要です。工場の設備を省エネ型に更新したり、IoT技術を活用してエネルギー消費の「見える化」を図ることができます。
■ 設備の省エネ化
インバーター付きモーターや高効率ボイラーの採用をしたり、古い機器を最新の省エネモデルに更新するなど、高効率設備の導入によって省エネ化を進めることができます。また、稼働時間や負荷を見直し、必要な分だけ稼働させたり、定期メンテナンスによって効率を維持することで、設備を適正に運用することも省エネ化につながります。
■ 工場の運用改善
IoT技術を活用し、センサーやモニタリングシステムでエネルギー使用量を「見える化」したり、エネルギーの無駄をリアルタイムで把握して対策を実行します。また、工程間の無駄を削減するために工程設計を見直し、ジャストインタイム(JIT)生産を導入することで、在庫とエネルギーの浪費を減少させ、生産工程の最適化を図ります。
*ジャストインタイム(JIT):トヨタ自動車が開発した生産管理システムで、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」を生産する仕組み
② 再生可能エネルギーの活用
再生可能エネルギーを活用することは、環境保護だけでなく、長期的にエネルギーを利用できるようにして将来的なエネルギー危機を回避したり、コスト削減につながるなど多面的にメリットがあります。太陽光発電や風力発電を取り入れ、自社でエネルギーを賄うことが再生可能エネルギーの活用につながります。
■ 再生可能エネルギーの利用
太陽光発電、風力発電、バイオマス発電など自家発電システムの設置によって、電力網からの供給を補完することでコストを削減できます。また、工場で生成した再生可能エネルギーを直接使用し、エネルギーの自社利用を進めることで外部依存を低減します。
■ 廃熱の再利用
製造過程で発生する熱を再利用して、暖房や別の工程に活用できる廃熱回収装置の導入や、廃熱を利用し低温から高温に効率的に熱を移動させるヒートポンプ技術が重要になります。
*ヒートポンプ技術:エネルギー供給構造高度化法(2009年施行)により、ヒートポンプで利用する空気熱や河川水等の熱は再生可能エネルギーと定義
③ 製造プロセスの見直し
廃棄物の削減や循環型経済への対応には、製造プロセスの見直しが重要です。
■ 廃棄物発生減の特定と削減
大切となるのは原材料の最適化です。原材料の使用量を最小限に抑える設計を行うことや、カット工程や加工工程で発生する廃材を減らすため、精密加工やデジタル設計を採用するのもひとつです。また、製造過程で発生する副産物や余剰材料を別製品の原料として利用する仕組みを構築することで廃棄物の削減につながります。(例:食品工場での加工後の皮や種を飼料やバイオ燃料に転用する)
■ 生産プロセスの改善
Lean(リーン)製造方式を採用し、無駄な工程や資源の浪費を削減したり、ジャストインタイム(JIT)方式で過剰生産を抑制するなど、効率的な生産工程を設計することが大切です。また、廃棄物を回収し、再利用やリサイクルに組み込む「閉じた循環(クローズドループ型の生産)」の構築も重要です。
*Lean(製造方式):「トヨタ生産システム(TPS)」を研究・体系化して一般化した生産方式で、無駄を排除したスマートな生産方式
*クローズドループ型の生産:商品企画・開発・製造段階から廃棄に至る、商品のライフサイクル全体を視野に入れた循環型生産システム
④ 製品設計の改善
製造プロセスだけでなく、環境に優しい製品開発を進めることも大切です。
■ リサイクル可能な製品設計
製品のデザイン段階での工夫も重要です。製品をリサイクルしやすくするため、単一素材や容易に分解できる設計を採用しましょう。(例:ネジや接着剤を減らし、分解可能なジョイント方式を採用)
また、製品のライフサイクルを延長させるために、修理可能な設計やモジュール型構造を取り入れたり、消耗部品だけを交換できるようにすることで、廃棄物を削減できます。
他社の成功事例
前項で環境規制への対応策をいくつか挙げましたが、実際に企業はどのような対応をとっているのでしょうか
- トヨタ自動車株式会社
燃費向上技術や水素燃料電池車の開発に注力し、サプライチェーン全体での脱炭素化を推進。また、廃熱再利用システムを導入し、工場の暖房コストを低減。 - ユニリーバ
包装材にリサイクルプラスチックを導入し、廃棄物削減を実現。 - 日産自動車株式会社
IoT技術を活用してエネルギー使用量を細かくモニタリングし、工場の消費電力を削減。 - ダイソン株式会社
製品の分解やリサイクルが容易な設計を採用。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
環境規制への対応は製造業にとってコストではなく、競争力を高めるチャンスと捉えるべきです。これにより、持続可能なビジネスモデルを構築し、社会的信用を向上させることにつながります。是非社内で対応策を検討してみてくださいね。
▽参考サイト
プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)の普及啓発ページ
ヒートポンプとは
クローズドループとは 言葉の意味や取組事例を解説 | ELEMINIST(エレミニスト)