こんにちは、エクシールの今井です。
今回は【トレースバックとトレースフォワード】についてです。
ビジネス環境が高度化・複雑化する中で「トレーサビリティ」の重要性は年々高まっています。製品の保証やクレーム対応、リコール対策において「いつ・どこで・誰が・何を使って」製造・流通したかを正確に把握できる体制は、今や多くの企業にとって必須のインフラになっています。
その中核をなすのが「トレースバック」「トレースフォワード」の考え方です。
本記事では、それぞれの意味や役割、導入のポイントについて詳しく紹介していきます。
トレーサビリティとは何か?
まず押さえておきたいのが、「トレーサビリティ」という概念です。
トレーサビリティとは、「製品や部品、原材料などの移動・加工・使用履歴を前後の工程にわたって記録・追跡できる能力」のことを指します。
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トレーサビリティには主に以下の2つの目的があります。
① 問題発生時の迅速な原因究明(トレースバック)
② その原因を及ぼす影響範囲の特定と対応(トレースフォワード)
それぞれの活用例、メリットを見ていきましょう。
トレースバックとは?
トレースバックとは「製品に問題が発生した場合に、発生源や原因を過去の工程にさかのぼって調査・特定する」手法です。
トレースバックが可能であれば、原因となった工程を特定しやすいため、迅速な対応ができるようになります。
活用例
【製造業】不良品が出荷されたケース
完成品の一部に重大な不具合(例:部品の締め付けトルク不足)が発覚。
→ トレースバックにより、該当製品の製造ライン・作業者・使用部品ロット・使用工具の校正履歴まで特定
→ 原因は、特定期間に使われたトルクレンチの校正漏れと判明
【食品業界】アレルゲン混入の疑いが生じた場合
消費者から「アレルギー症状が出た」と報告があった商品について、使用原料や製造工程、混入の可能性がある設備をさかのぼって調査。
→ 原材料の切り替え時に適切な洗浄がされていなかったことが原因と特定
【医薬・化粧品業界】副作用の報告があった薬品・製品に対して
製造バッチの成分、温度管理状態、ロジスティクスの履歴を洗い出し、保健当局への報告や安全性の再検討に活用。
メリット
■ 原因究明のスピードアップ
問題の“根本原因”にいち早くたどり着くことで、誤った対応や責任転嫁を防ぎ、的確な是正策を打つことができます。
■ 品質管理体制の信頼向上
「万一の際でも原因を明確に突きとめられる」という信頼感は、顧客・取引先からの信頼獲得に繋がります。
■ 監査・認証対応がスムーズに
ISOなどの第三者監査や、行政機関による立ち入り調査において、根拠ある記録が提示できる体制は大きな安心材料です。
■ 内部教育・プロセス改善に寄与
過去の不具合対応履歴を活用し、現場の再発防止策や教育コンテンツに展開することで、継続的改善が可能になります。
トレースフォワードとは?
トレースフォワードとは「問題の原因が判明した後、それが影響する製品や出荷先を時間経過に沿って追跡し、迅速な対応を取る」ための仕組みです。
この仕組みにより、原材料や自社で製造した部品が、どの製品に使用されているかを把握できるため、素早く商品を回収できます。
活用例
【自動車業界】サプライヤーからの部品不具合の通知を受けた場合
該当ロットの商品が搭載された車両のVIN(車体番号)を全て抽出。販売ディーラーや顧客に通知し、対象車両のみリコールを実施。
→ 全数リコールを避け、費用・顧客負担を最小化
【食品業界】製造後にアレルゲンの表示漏れが発覚
その原材料を使ったすべての製品を特定し、どの出荷便・小売店舗に流通しているか追跡。
→ ECサイトや店舗POPで自主回収を迅速に実施
【電機・精密機器】ファームウェア不具合の修正が必要になった場合
影響を受けるシリアルナンバーを絞り込み、対象ユーザーにのみOTA(Over The Air)アップデートを配信。
メリット
■ リスク対応の即応性が高まる
問題の「影響範囲」を迅速かつ正確に把握できる、対応が後手に回ることなく、機会損失やクレームを最小限に抑えられます。
■ コストと時間の最小化
全製品の回収ではなく、対象を限定した回収や改修が可能になるため、リコールコストを大幅に削減できます。
■ 顧客・市場からの信頼維持
迅速な対応と情報開示によって、トラブル時であっても企業姿勢に好感を持たれやすくなります。
■ コンプライアンス対応の強化
業界ごとの規制や法的要件に準拠した対応が求められる中、正確な履歴データがあることで法的リスクの低減になります。
トレースバックとトレースフォワードの違い
比較項目 | トレースバック | トレースフォワード |
追跡方向 | 過去(原因にさかのぼる) | 未来(影響を先にたどる) |
主な目的 | 原因究明・分析 | 影響範囲の特定・迅速な対応 |
活用タイミング | 問題発覚直後(原因調査) | 原因特定後(リスク対処) |
リスク視点 | なぜ起きたのか? | どこまで広がるのか? |
なぜトレース力を強化すべきなのか
■ 規制強化と社会的責任
HACCP義務化、ISO9001やIATF16949など、業界ごとにトレーサビリティ強化が求められる動きが加速しています。加えて、SDGsやESG経営の観点からも「透明性のあるサプライチェーンの構築」は重要な経営課題です。
■ リスク対応の即応性が企業価値を左右する
SNSや口コミにより、製品トラブルの情報は瞬時に広がります。問題が発生した際、どれだけスピーディかつ誠実に対応できるかが、企業の信頼性に直結します。
■ デジタル化によるトレーサビリティの高度化
IoTやRFID、ブロックチェーンといった技術の進化により、リアルタイムでのトレースが可能になり、単なる「記録」から「予測と防止」にシフトする企業も増えています。
まとめ
トレースバックとトレースフォワードは、どちらか一方だけでは機能しません。
問題が「なぜ起きたのか」知り、「どこに影響が及ぶか」を正しく把握し、万が一のトラブル時に迅速に対応できるように、日頃からトレーサビリティを整備しておくことが大切です。
<参考>
トレーサビリティってどんな意味?目的や方法も併せて解説|BoConcept
トレーサビリティとは?概要を導入するメリットをご紹介|株式会社サトー